一般的なジェルネイルは、自爪表面をファイルで軽くサンディングしてからジェルを塗布します。一方、パラジェルなどに代表されるノンサンディングジェルは、サンディングを行わずに自爪へ密着させることを特徴としています。
爪を削らない施術として人気ですが、「本当にサンディングなしで取れないの?」といった疑問を持つ方も少なくありません。
今回は、機械的結合・化学的結合による接着のしくみを科学的に解説します。

1.そもそもサンディングは何のため?
ベースジェルを塗る前に、ファイルやバッファーで爪表面の光沢を落とす「サンディング」という工程。これは、爪の表面に細かな凹凸をつくるために行います。
この凹凸にベースジェルが流れ込み、ジェルが表面に引っかかる面積が増え、アンカー効果が生まれてはがれにくくなります。
これは、接着剤が表面の微細な凹みに入り込む「機械的なかみ合わせ」に近い考え方です。
サンディングをすることで、ジェルが船を固定する「錨(いかり)」のように、強い密着力の一部を担ってくれるのです。
また、表面の油分や水分の影響を減らし、ジェルが爪に広がりやすくなる作用もあります。
2.密着のための爪とジェルの界面条件
爪甲は、硬いケラチンを含む細胞が重なった構造をしています。
大きく三つの層から構成され、平均で約196層の細胞が分布すると言われ、表面が平らに見えても微細な凹凸と層構造があります。
さらに、爪には水分と脂質が含まれ、手洗いや入浴などで水分を含むとやわらかくなり、乾燥すると硬くなります。常に完全に同じ状態ではありません。
そのため、ジェルの密着を考えるには、単に「硬いもの同士をくっつける」のではなく、次の三つの条件をそろえる必要があります。
| 密着に関わる条件 | 意味 |
| ぬれ性 | ジェルが爪表面に均一に広がり、隙間をつくらない性質 |
| 界面での相互作用 | ジェルの成分と爪表面のケラチンなどが接することで生じる力 |
| 硬化後の収縮・柔軟性 | 硬化した膜が爪の動きに追従し、界面に過剰な力をかけない性質 |
ノンサンディングジェルは、サンディングの代わりに、これらの界面条件を処方と技術で整える考え方です。
3.ノンサンディングジェルが密着するしくみ
ひとくくりに「ノンサンディングジェル」と言っても、削らずに密着させるための設計思想は、メーカーや製品によって異なります。
具体的な配合内容は非公開が多いため、ここでは業界で一般的に知られている設計の”考え方”として整理します。
タイプ1:酸性モノマー配合型——表面状態を変えて密着させる
ベースジェルの中に、メタクリル酸などの酸性モノマー、または酸性基を持つ反応性成分を配合するタイプ。
酸性成分は、爪表面の水分や油分に作用し、表面を一時的に脱水・脱脂します。さらに、表面の状態を変えてジェルが広がりやすくし、微細な凹凸への流れ込みや、ケラチンとの極性相互作用を助けます。
ただし、メタクリル酸は刺激性・腐食性が問題になり得る成分で、皮膚に接触させないことを前提に、訓練を受けた専門家が爪上へ限定的に使用する必要性が指摘されています。 酸の種類と濃度、塗布量、皮膚への付着、爪の状態を考慮しなければなりません。
タイプ2:機能性モノマー配合型——分子の「橋」でつなぐ
ベースジェルの中に、爪表面と相互作用しやすい官能基を持つ機能性モノマーを配合するタイプ。
リン酸基、カルボン酸基、ヒドロキシ基などの極性を持つ部分は、ケラチン中のアミノ酸側鎖や水分と相互作用しやすい性質があります。一方、分子の反対側にあるメタクリレートなどの重合性基は、光硬化するジェルのネットワークに組み込まれます。
イメージとしては、一つの分子が「爪側につかまる部分」と「ジェル側に組み込まれる部分」を持つ、分子レベルの橋です。歯科材料のセルフエッチング型接着材と発想が似ています。
このタイプは、酸で爪表面を大きく荒らすよりも、界面での相互作用と硬化膜への組み込みを重視します。
ただし、すべての製品に同じ種類の共有結合が形成されるわけではなく、実際の密着は、官能基の種類と濃度、水分、爪表面の清浄度、硬化条件の影響を受けます。
タイプ3:プライマー分離型——密着の仕事を下地に任せる
密着を担当する成分を、専用プライマーに分けるタイプ。
プライマーは爪表面の状態を整え、爪甲との相互作用をつくり、次に塗るジェルとの間をつなぐ役割を担います。
この方法の利点は、ベースジェルに役割をすべて詰め込まず、密着の機能と膜の物性を分けて設計できることです。一方で、プライマーの量や塗布範囲が仕上がりを左右し、ムラ塗りや厚塗りをすると均一な接着層にならず、かえって界面の弱点になる場合があります。
また、プライマー分離型には酸性タイプと非酸性タイプがあります。
「プライマーを使うタイプ=すべて同じ」と考えず、製品の成分と使用方法を確認しましょう。
タイプ4:高浸透・低粘度モノマー型——爪表面へ行き渡らせる
酸性官能基による化学的な相互作用だけでなく、液体の広がりやすさ(ぬれ性)を重視するタイプ。
低粘度のジェルやモノマーが、爪表面にある微細な凹凸へ行き渡って硬化することで、接触面積と機械的保持を確保します。
化学結合だけでなく、液体が表面に広がるぬれ性、細かな隙間へ移動する流れ、硬化後の微細なアンカー、樹脂膜の収縮が組み合わさります。
そのため、油分や水分が残っていると、ジェルが広がっているように見えても、爪甲そのものとの接触が不足し、浮きにつながることがあります。
タイプ5:徹底した脱水・脱脂型——爪表面の状態を整える
特殊な機能性モノマーよりも、プレプライマーや下処理剤によって爪表面の水分・油分を調整し、通常のベースジェルが接触しやすい状態をつくるタイプ。
爪表面に異物が少なくなれば、ジェルとケラチンが広い面積で接触し、ファンデルワールス力(原子や分子間の電気的な引き力)などの分子間力、ぬれ性、硬化膜の保持が働きやすくなります。
ただし、実際には、ベースジェルの組成、爪表面の微細構造、塗布の均一さ、硬化後の収縮なども関係します。
このタイプでは下処理の再現性が特に重要で、手洗い直後や油分の多い保湿剤を使用した直後などは、同じ製品でも結果が変わる可能性があります。
タイプ6:やわらかい樹脂・応力分散型——爪の動きについていく
硬化後の弾性率を低めに設計し、爪の変形に追従しやすくするタイプ。
爪表面との化学結合を直接強くするというより、接着界面にかかる力を分散し、浮きの起点をつくりにくくする設計です。
爪がしなりやすい人や、指先に衝撃が加わりやすい人では、硬すぎるジェルより相性がよい場合があります。
一方で、やわらかい膜は傷や摩耗が生じやすく、柔軟だから必ず長持ちするわけではなく、塗布量が多すぎたり、硬化が不十分だったりすると、かえって変形や浮きにつながります。
| タイプ | 密着の主な軸 | 特に気をつけたいポイント |
| 酸性モノマー配合型 | 脱水・脱脂、表面状態の変化、極性相互作用 | 酸の種類と濃度、皮膚への付着、刺激性 |
| 機能性モノマー配合型 | 官能基による界面相互作用と樹脂への組み込み | 成分の組み合わせ、油分・水分、硬化条件 |
| プライマー分離型 | 下地剤による爪とジェルの橋渡し | プライマーの量、均一さ、皮膚への付着 |
| 高浸透・低粘度型 | ぬれ性、微細凹凸への流れ込み、アンカー形成 | 塗布ムラ、油分・水分、硬化条件 |
| 脱水・脱脂型 | 清浄な界面での接触と分子間力 | プレパレーションの再現性、乾燥させすぎ |
| やわらかい樹脂型 | 爪のしなりへの追従と応力分散 | 強度、摩耗、厚み、長さとのバランス |
実際の製品は、こうしたタイプのどれか一つだけで成り立っているとは限らず、様々な要素を組み合わせて設計されていることも少なくありません。
4.ネイルの密着は「物理」と「化学」の合わせ技
このように、ネイルの密着は、機械的結合と化学的結合が組み合わさっています。
サンディングありのシステムが持ちの面で有利なのは、化学的結合の量が増え、そこに機械的なアンカー効果が独立して上乗せされるためです。「ノンサンディングジェルにあえてサンディングをすると特に強くなる」のも、同じ理屈の延長線上にあります。
しかし、自爪の削りすぎを避けること、オフの際に爪への負担を考えた丁寧な工程を行うことは欠かせません。
ノンサンディングは、自爪を削らない点で爪に優しいと言われますが、酸性成分の影響を考慮する必要があります。
また、下処理が不十分だと浮きやすく、水分や雑菌がジェルと爪のすき間に入り込み、グリーンネイルなどのリスクも高まります。
それぞれのメリットとデメリットを理解し、メーカーや製品ごとの特長も把握して、自分に合った選択することが大切です。
まとめ
単に爪に乗っているだけのように見えるジェルが、実は色んな物理や化学の力でくっついていると理解すると、可愛いだけじゃないジェルの違った面が見えてきますね。
最近は、自分の爪の状態に合わせて色々なジェルを選べるようになり、それ自体は喜ばしいことではありますが、ネイルを楽しむ方が選択に迷ってしまうことも多くなってきたように感じます。
判断がつかない場合には、信頼できるネイリストに相談してみてくださいね。
ネイルサロンクロリ福生では、私も直接ご質問にお答えしています。
クロリで施術をしない方でもご質問を歓迎しておりますので、お気軽にどうぞ!
参考文献
- Yoshida Y, et al. Comparative study on adhesive performance of functional monomers. Journal of Dental Research. 2004
- Carrilho E, et al. 10-MDP based dental adhesives: Adhesive interface characterization and adhesive stability – A systematic review. Journal of Dentistry. 2019
- Awaja F. Autohesion of polymers. Polymer. 2016;97:387–407
- de Gennes PG, Leger L. Dynamics of entangled polymer chains. Annual Review of Physical Chemistry. 1982;33:49–61
- Arceneaux JA. Mitigation of Oxygen Inhibition in UV LED, UVA, and Low Intensity UV Cure. RadTech Proceedings
この記事を書いた人:

美容研究家/文筆家/サイエンスキュレーター
年間2,000点以上の化粧品を見極める美容研究家。
早稲田大学大学院修了後、運動生理学・人間工学・臨床心理学を専門に、自動車メーカーで疲労・ストレス研究に12年間従事。その後、教育業界で13年指導を行う。
研究者の分析力と教育者の伝える力を生かし、美容を科学的な視点でわかりやすく解説。成分やエビデンスをもとに、実際の使用感まで踏み込んだレビューに定評がある。
1995年のインターネット黎明期から情報発信を始め、2004年に美容ブログを開設。以来20年以上、変わらず一次情報にこだわった美容コンテンツを届けている。
現在はインフルエンサー・プラスサイズモデル・経営者としても活動。2022年にU to U合同会社を設立し、2023年にはネイルサロン「coloris(クロリ)」をプロデュース。「誰もが活き活きと輝ける仕組みづくり」を軸に事業を展開中。
学生時代はスキーで国体出場、体育会バレーボール部・ア式蹴球部(サッカー部)に所属し、体育教員免許を保有。趣味は作詞作曲と水彩画。猫様のしもべ。
